鼠径(そけい)部ヘルニアについて 外科医 田渕 諒介(こんにちわ2025年9月号)

鼠径部ヘルニアとは、おなかの中の腸や脂肪が足の付け根(鼠径部)から皮膚の下に飛び出してくる病気です。一般には「脱腸(だっちょう)」とも呼ばれます。立った時やいきんだ時にふくらみが出てきて、横になると引っ込むのが特徴です。放置しておくと、ふくらみが引っ込まなくなることや腹痛や嘔吐が出てくることがあります。これをヘルニアの「嵌頓(かんとん)」といい、緊急手術が必要になる場合があります。
鼠径部ヘルニア(新JHS分類)では、内鼠径ヘルニア・外鼠径ヘルニア・大腿ヘルニアの3型に分類されています。
日本では年間約15万件以上の手術が行われており、日本で最も多い外科手術になります。高齢の男性に多く見られますが、新生児から高齢者まで幅広い年齢で発生します。特に新生児や乳児では先天的な要因によることが多く、男女ともに起こります。原因はおなかの壁の弱い部分から内臓が押し出されるためで、年齢や生活習慣、手術歴などが関係します。
治療は基本的に手術を行います。飛び出した臓器を元に戻し、おなかの弱い部分を補強します。手術方法には、大きく分けて「鼠径部切開法」と「腹腔鏡手術」があります。腹腔鏡手術にはおなかの中から修復するTAPP法と、腹膜外で修復するTEP法があります。当院では、傷口が比較的小さく回復が早いとされている腹腔鏡手術(TAPP法)と、再発例や特殊な場合に向く鼠径部切開法の両方に対応しています。患者さんの年齢や体力、生活スタイルに合わせて方法を選びます。
鼠径部ヘルニアは自然に治ることはなく、放置すると危険な状態になることがあります。足の付け根にふくらみを感じたら、早めに外科を受診し、適切な治療を受けることが大切です。
外科医 田渕 諒介