こんにちわ誌

2005年6月号
「職人技と危機管理」 内科医長 松本有司

「職人技と危機管理」

 先日のJR列車脱線事故は凄惨そのものであった。御遺族の方々にとっては、さぞかし無念であったであろう。二度とこのような事故は起こして欲しくないと誰もが願うが、残念ながらそうとは言い切れないようだ。我々は、これまで何気なしに列車を利用してきたが、列車の停止は意外と難しくかなりの熟練が必要らしい。事故を起こした運転手は、運転経験11ヵ月で経験豊富とは言い難い。おまけに、到着には、数秒の遅れも許されないかなりの重圧の中での業務であり、このことは同情しないわけでもない。

 何が原因でそんな事故が起こったのか。

 運転の未熟さ。しかし、未熟であることは事前にわかっていることであろう。事故の原因を経験不足のみでは結論づけられない。危機管理の問題が問われる。

 職人技とは、経験と熟練を土台に築いた卓越した専門技術のことである。JRの列車を正確な位置に停止させる技術は職人技に相当するそうである。しかし、職人技に頼らないといけない安全はもはや安全とはいえない。

 医療においても全く同じことがいえる。職人技を有した名医によって行われる治療でも、絶対ということはあり得ない。今日、どんなに神の手と呼ばれても、その神の手頼りの医療はもはや安全とは呼べない時代である。神の手の手法は、貴重である一方で、しばしば、マニュアル化が難しいという弱点がある。危機管理とは、術者が神の手を持っていたとしても、より安全な方策を用意しておくことである。駆け出しの新人には、職人芸よりむしろマニュアルの習得が先決でいわばこれが危機管理であると思われる。

 今回の、列車事故は、我々医療従事者による患者様の安全確保の側面にも重要な教訓をもたらしている。

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