こんにちわ誌

2000年5月号
「原風景」 副院長 西村哲一

「原風景」

 桜の便りが津軽の海を越える頃、南のくにでは若葉の季節です。狭い日本とはいえ、この国ではいろんな春が同居してお互いの風情を競っています。地方の色が一番よくでる季節とも言えるでしょう。

 原風景という言葉があります。辞書を探しても載っていないような言葉ですが、その人の心の奥底にあってその人の人格や、人生観を形造る原点ともなる風景というのでしょうか。私にとっての原風景は早春の薄紅色に萌え出した雑木林とそこに煙るように咲きだすコブシの花の風景です。そんな風景に出会うと心の中でなにか暖かい塊が溶けていくような感じがします。私の原風景の先には人がいません。しかし、なんでこんな風景が私の心をつかまえて放さないのかと考えてみると、そこには私の小さい頃の祖母の姿が見えて来ます。祖母はいつも私のすぐ後ろや横に寄り添ってくれていました。いつも私と同じ目線で同じ景色を見ていたのです。 あの暖かい塊の正体も祖母の体の、また心のぬくもりだったようです。ひとの原風景の形成にはその風景にかかわる人の存在が大きなウエイトを占めています。世界中、何十億の人々、それぞれに大切な風景があるはずです。しかし、その中には美しい、懐かしいものばかりではなく、悲惨で涙を呼ぶ風景も少なくないに違いありません。今日も、子供たちの心の中には原風景になるだろう自然と人との触れ合いの記憶が蓄積されています。その子供たちの原風景が暖かい塊に触れるものになって欲しいものです。
 五月五日は子供の日……

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